○鰺ヶ沢町監査基準に係る実施要領
令和2年2月25日
監査委員訓令第2号
実施要領は、監査委員が行うこととされている監査、検査、審査その他の行為を監査基準に沿って行うために、監査基準に規定する項目のうち、特に留意を要する事項に係る実務のあり方について、詳細な説明、具体例、望ましい実務を記載するものである。
今後、本実施要領に記載する項目については、必要に応じて追加や見直しを行うものである。
1 経済性、効率性かつ有効性の監査等
(1) 財務監査及び行政監査
地方自治法(昭和22年法律第67号)第199条第3項において、監査委員は、財務監査及び行政監査を行うに当たっては事務の執行及び経営に係る事業の管理が同法第2条第14項及び第15項の規定の趣旨に則ってなされているかどうかについて、特に、意を用いなければならないと規定されている。このことから、監査基準第2条第1項第1号及び第2号においても、同様に規定したところであり、事務の執行及び経営に係る事業の管理が、経済的(より少ない費用で実施すること)、効率的(同じ費用でより大きな成果を得ること、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ること)かつ効果的(所期の目的を達成していること、また、効果を挙げていること)に行われているかについて監査することが求められる。(第2条第1項関係)
(2) 決算審査
決算審査については、監査基準において、決算その他関係書類が法令に適合し、かつ正確であるか審査することが求められているが、実施可能な地方公共団体においては、これに加え、予算の執行又は事業の経営が、経済的、効率的かつ効果的に行われているかについて審査することも考えられる。(第2条第1項関係)
(3) (1)及び(2)以外の監査等
(1)及び(2)以外の監査等についても、例えば、内部統制評価報告書審査において、長による評価手続が経済的、効率的かつ効果的に行われているかについて審査を行う等、可能な範囲で、経済的、効率的かつ効果的に行われているかについて監査等を行うことが考えられる。(第2条第1項関係)
2 議決による権利放棄に関する監査委員の意見
住民監査請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決に係る監査委員の意見の決定については、財務会計行為の性質、長若しくは委員会の委員若しくは委員又は職員(以下「長等」という。)の帰責性の程度、当該権利の放棄による影響、長等の損害賠償責任の一部免責に関する条例を制定することが可能であることその他監査委員が必要と認める事項を考慮することが求められる。(第2条第2項関係)
3 リスクの識別及び評価並びに対応
効率的かつ効果的に監査等を実施するためには、監査等の対象のリスク(組織目的の達成を阻害する要因をいう。以下同じ。)を識別し、そのリスクの内容及び程度を評価した上で、自らの団体においてリスクが高い事務事業に監査資源を配分することが求められる。(第8条関係)
(1) リスクの識別
・自らの団体の事務手続の流れを基に、自らの団体においてリスクが存在する事務事業を優先的に特定
・自らの団体及び他団体においてリスクが顕在化した事案を基に、自らの団体において同様の事案があるかどうかを確認
等の方法を活用して、監査委員は自らの団体のリスクを識別する。
監査等の結果として過去に指摘した事項から、自らの団体におけるリスクを識別することも考えられる。
なお、リスクの識別に当たっては、参考1「標準的な事務フローから想定されるリスク及び監査手続(以下「事務フロー」という。)」、参考2「各団体に共通するリスクが顕在化した事案集(以下「リスク事案集」という。)」が参考となる。
事務フローは、主な事務について、標準的な事務フローに沿って事務処理毎に想定されるリスクを抽出し、それぞれのリスク毎に想定される各部局の対応策を記載し、その確認に必要な監査手続を整理したものである。
リスク事案集は、過去に全国の地方公共団体においてリスクが顕在化した事案を事務処理毎に区分し、それを防ぐために必要であったと考えられる想定される対応策を記載し、その確認に必要な監査手続を整理したものである。
(2) リスクの評価
(1)により識別したリスクについて、量的重要性及び質的重要性を評価する。
量的重要性については、当該リスクが生じる可能性及び当該リスクがもたらす影響の大きさの観点から検討を行う。その際、当該リスクが生じる可能性については、高・中・低等、当該リスクがもたらす影響の大きさについては、大・中・小等と段階に分けて評価することも考えられる。金額としての影響を見積もることができるものについては、金額により、その他のものについては、例えば、総件数や総人数の一定割合といった一定の指標によることが考えられる。
質的重要性については、行政に求められる信頼性や公平性、住民の安全の確保等の観点から検討を行う。
(3) リスクへの対応
(2)により量的重要性及び質的重要性が高いと評価したリスクについては、その発現を看過する可能性を低い水準に抑えなくてはならない。そのため、監査の重点項目として、監査資源を優先的に配分した手続を実施することが必要となる。
他方、量的重要性及び質的重要性が低いリスクに対しては、合理的に監査資源を配分した手続によりリスクの発現を看過する可能性を低い水準に抑えることができるものと考えられる。
4 内部統制に依拠した監査等
地方自治法等の一部を改正する法律(平成29年法律第54号)により、長による財務に関する事務等の管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針の策定及びこれに基づく必要な体制(内部統制体制)の整備が、都道府県及び指定都市に義務付けられ、その他の市町村には努力義務が課せられた。他方、地方公共団体は、既に団体ごとの特性に応じて様々な形で事務の適正な執行の確保に努めており、既に一定の内部統制が存在していると考えられる。すなわち、想定されるリスクを基にした、何らかの事前の対策が講じられているものと考えられる。
このため、内部統制を前提として、内部統制に依拠した監査等により、より本質的な監査実務に人的及び時間的資源を重点的に振り向けていくことは、内部統制制度が導入及び実施されている地方公共団体に限らず、全ての地方公共団体にとって必要な考え方である。(第9条関係)
(1) 内部統制制度が導入及び実施されている団体
地方自治法に基づき内部統制制度が導入及び実施されている地方公共団体においては、内部統制評価報告書の長による作成及び監査委員による審査が行われているため、その評価及び審査結果を前提に、内部統制に依拠し、効率的かつ効果的な監査を行うことができる。その際、監査委員は、監査等の実施に当たって、内部統制の整備及び運用状況を検討する際に、内部統制評価報告書審査の過程で得られた証拠を利用することが想定される。
監査等の実施に当たって、長による内部統制の評価の対象となった事務については、内部統制評価報告書審査における証拠を監査等においても利用することが想定される。一方で、長による内部統制の評価の対象とされていない事務については、監査委員は、必要に応じて、監査委員自らの判断で個別に評価対象に追加し、内部統制の整備状況及び運用状況について情報を収集する必要がある(具体的な情報を収集する方法については、4.(2)本文参照。)。
以上により、監査等の実施に当たって、地方自治法に基づき内部統制が整備及び運用されており、内部統制に整備上又は運用上の不備がない場合には、量的重要性及び質的重要性が高いリスクに対しても、内部統制が適切に整備及び運用されており、リスクの程度が低い水準に抑えられていると考えられる。このため、監査範囲を縮小(サンプルサイズを小さくする等)することや試査等の対象から外すことも考えられる。この結果、本質的な監査業務に人的及び時間的資源を重点的に振り向けていくことが可能となる。
他方、内部統制に整備上又は運用上の不備がある場合には、その不備による影響の程度に応じて、内部統制に依拠できる程度を勘案し、監査範囲の拡大や関係職員へのヒアリングを実施する等、監査等の深度を深める。その際、内部統制が有効に機能していない原因について検討した上で是正又は改善を求めることに努める。
なお、内部統制評価報告書の審査は、「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」(令和2年3月総務省)に沿って行うこととなるが、「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」においては、監査委員による内部統制評価報告書の審査は、監査委員が確認した資料やその他の監査等によって得られた知見に基づいて行うこととしている。
内部統制に依拠した監査等を行うことにより、内部統制評価報告書の審査時点において、既に内部統制の整備状況及び運用状況について十分な知見を得ていることから、内部統制評価報告書の審査も効率的かつ効果的に行うことができるものと考えられる。
また、内部統制に関する方針の策定、内部統制体制の整備、評価項目や評価方法の検討等に当たって、必要に応じ、長と意見交換会等を行うことにより、監査委員の視点を長の効果的な内部統制の整備及び運用につなげることが可能となると考えられる。このことにより、内部統制評価報告書の審査を円滑に実施することに加え、内部統制に依拠できる程度を向上させ、監査等を効率的かつ効果的に実施することにつながる。
(2) 内部統制制度が導入及び実施されていない団体
内部統制制度が導入及び実施されていない地方公共団体にあっては、長において、内部統制の整備状況及び運用状況を評価し、監査委員が審査を行う仕組みが構築されていないため、その代わりに監査委員が、想定されるリスクを基にした内部統制の整備状況及び運用状況について情報を収集する必要がある。文書化された業務のマニュアル等関連文書の閲覧、ルールに即して業務が行われているか等内部統制に関係する適切な担当者への質問、業務の観察等を行う等により情報を収集し、内部統制の整備状況及び運用状況を検討することが考えられる。
その際、「事務フロー」及び「リスク事案集」における「想定される各課の対応策」の内容と自らの団体の対応策を比較し、「想定される各課の対応策」が自らの団体において行われていない場合には代替策を講じているか質問する等、両者のギャップの有無から内部統制の整備状況を検討することや「想定されるリスク」が実際に生じたか否かを質問する等により運用状況を検討することも考えられる。
なお、内部統制の整備状況及び運用状況を監査委員が検討することで、その過程で得た内部統制の整備状況及び運用状況についての知見を、必要に応じて意見交換等を通じて長に伝達することにより、長による効果的な内部統制の整備及び運用を促し、監査等の効率的かつ効果的な実施につなげることができると考えられる。
① 内部統制に依拠した監査等が実施できる場合
監査委員が内部統制の整備状況及び運用状況について情報を収集し、その結果、内部統制に依拠した監査等を実施できると評価できる場合には、(1)と同様に、内部統制に依拠し、効果的かつ効率的な監査を行うことができる。
全ての業務又は部署ではなくとも、その一部について内部統制に依拠した監査等が実施できる場合には、当該業務又は部署の一部について、部分的にでも内部統制に依拠した監査等を実施することができる。
② 内部統制に依拠した監査等を実施できない場合
監査委員が内部統制の整備状況及び運用状況について情報を収集し、その結果、内部統制に依拠した監査等を実施できると評価できない場合には、従来どおり、内部統制に依拠せず、リスクの重要性に応じて監査等を行う必要がある(3(3)参照)。
内部統制によりリスクの程度を低い水準に抑えられていないため、監査委員は、量的重要性及び質的重要性が高いリスクについて、監査範囲の拡大や関係職員へのヒアリング等、重点的に監査等を行うことが求められる。
業務又は部署の一部について部分的にでも監査等を効率的かつ効果的に実施するためにも、監査委員が業務又は部署の一部について把握した内部統制の不備について、適切な是正又は改善を促すため、担当部局等に聞き取り等の確認又は是正若しくは改善の助言を行うことに加え、必要に応じて長との意見交換等を通じ、監査委員の知見を長による効果的な内部統制の整備及び運用に生かしていくことが期待される。
5 指導的機能の発揮
監査委員は、監査等を実施する過程において、監査等の目的を果たす一環として、監査等の対象組織に対し、
・決算審査の過程において、決算その他関係書類と証拠書類の計数が符号しない場合には、正確な計数への修正を求める、
・監査の過程で発見された内部統制の重大な不備については、速やかな是正を指示し、同様の事例が発生しないよう必要な対応を講ずるよう求める、
・監査の過程で発見された経営に係る事業の管理が経済的、効率的かつ効果的に行われていない事例に対して、改善策を提言する、
等、必要に応じて是正又は改善を行うよう助言等を行い、指導的機能を発揮するよう努める。(第11条関係)
6 各種の監査等の有機的な連携及び調整
(1) 各種の監査等の有機的な連携及び調整
現行の監査実務上、「決算審査」「例月出納検査」「財務監査」等は、法律上は目的に応じて区別されているが、その目的や手続等は関連する部分もあることから、「決算審査における例月出納検査や財務監査との連携」「例月出納検査と財務監査の連携」等により、監査等の効率化が図られ、その結果、監査資源を有効活用することができる(参考3「「6.各種の監査等の有機的な連携及び調整」の例」参照)。(第12条関係)
① 決算審査と財務監査の連携
決算審査については、数値の正確性に加え、数値の裏付けとなる資料等(契約関係書類等)を審査する場合、既に財務監査において数値の裏付けとなる資料等を確認している部分については、その結果を決算審査に活用することで当該審査の効率化が図られ、例えば決算審査において予算執行の効率性の確認や財務分析に注力すること等、決算審査の充実及び強化を図ることが可能となる。
② 決算審査と例月出納検査の連携
既に例月出納検査において数値の裏付けとなる資料等を確認している部分については、①と同様、その結果を決算審査に活用することで当該審査の効率化が図られ、決算審査の充実及び強化を図ることが可能となる。
(2) 常勤の監査委員を置かない地方公共団体における留意事項
人口25万人未満の常勤の監査委員を置かない市町村においては、例月出納検査が監査委員が登庁する貴重な機会となっている。このため、毎月の例月出納検査における「現金出納」の帳簿等の確認に併せて、財務監査や決算審査の一部(例:当該出納に係る関係書類(支出伝票等)の確認)を実施することで、その後の財務監査や決算審査を効率的に実施することが可能となる。(第12条関係)
7 監査専門委員及び外部監査人との連携
(1) 監査専門委員との連携
監査委員は、監査等の独立性を確保しつつ専門性を高める観点から、必要に応じ、監査専門委員を選任し、調査を委託することができる。監査委員は、ICT、建築、環境等の専門性が求められる分野について、監査専門委員を選任し、連携して監査等を行うことで、専門的な知識の裏付けに基づいた監査等を行うことができる。(第13条関係)
(2) 外部監査人との連携
監査委員は、監査等を実施するに当たっては、外部監査人の監査等の実施に支障を来さないよう、相互の連携を図り、必要に応じ、外部監査人と意見交換を行う等の連携を図らなければならない。監査委員と外部監査人との間に有効な双方向の意思疎通が行われ、それぞれの監査結果を活用することにより、それぞれが担う監査等を効果的かつ効率的に行うことができると考えられる。(第13条関係)
8 監査等の事後検証
監査委員は、監査等の結果に関する報告等及び意見を提出した事項並びに勧告をした事項について、適時、措置状況の報告を求め、その状況を的確に把握するよう努める。当該措置が十分でない場合等には、必要に応じて監査等の対象組織と意見交換を行い、改めて次年度の監査対象とすること、新たに勧告を行うこと、勧告において措置を講ずる期限を設けること又は複数回勧告を行うこと等の必要な対応を講じることにより監査等の実効性を高めることが可能となる。
また、監査等の結果に関する報告等及び意見を提出した事項並びに勧告をした事項について、その原因や是正又は改善の取組を含めて、監査対象部局のみならず全庁的に共有することで、各部局の主体的な業務の改善につながる。(第18条関係)
附則
(施行期日)
1 本実施要領は、令和2年4月1日から施行する。