妊婦さん向けプチテキスト
妊娠中の過ごし方
妊娠中の正しい動作と姿勢
妊娠してお腹が大きくなると、どうしても腰が反り気味になり、正しい姿勢がとりずらくなります。
そのため腰の筋肉が疲れ、腰がだるい、重い、痛いということになりがちです。動作と姿勢を正しくすることで防ぎましょう。
- 立つときは片足に体重をかけます。「休め」の姿勢で。
- 歩く時は前かがみにならないで背筋をまっすぐにして歩きましょう。
- 物を持ち上げるときは、腰を落としてできるだけ荷物を体に引き寄せる。両手でしっかり持って立ち上がりましょう。
- 座るときは、背もたれのある椅子にゆっくり深く腰掛けましょう。
- 床に座るときは、あぐらをかくと楽です。
- 起き上がるときは横向きになり、両手で支えながらゆっくり起き上がりましょう。
- 立ち上がるときは、急に立ち上がらないで片膝を立ててゆっくり立ち上がりましょう。
妊娠中の家事
妊娠中でも掃除や洗濯、料理をしないわけにはいきません。
完璧を目指す必要はありませんので、できる範囲で気楽に行いましょう。
- 机の下などを掃除するときは膝をついて、不安定な姿勢は避けましょう。
- 高い所の掃除やお風呂の掃除は家族にやってもらいましょう。
- 掃除機をかけるときはまっすぐ立ちましょう。
- トイレや台所の掃除は少しずつこまめに行いましょう。
- 楽に干せるように物干し竿などの高さを低くしましょう。
便秘の予防
妊娠するとホルモンの関係や運動量の減少などにより、便秘がちになります。
便秘は痔の誘因や子宮収縮を起こしやすくなるので、早めに予防しましょう。
- 起床したらすぐにコップ1杯の水か牛乳を飲む。
- 朝食をきちんととる。
- 便意がなくても朝食後はトイレに入る習慣をつける。便意を我慢しない。
- 食物繊維の多い食品をたっぷりとる。
- 軽い運動をする。
- 腹筋を鍛える。
お酒やタバコを控えましょう
飲酒の影響
- 流産・死産
- 先天異常が生じることがある。
・胎児の発育の遅れ、成長障害
・精神遅滞や多動症などの中枢神経障害
・特異顔貌や小頭症など頭蓋顔面奇形
・心臓奇形、関節異常など
喫煙の影響
- 流早産をおこしやすい。
- 母子ともに貧血なりやすい。
- 死産や生後すぐの亡が多い。
- 身長や体重の発育が悪く、低出生児となる。
- 心臓奇形、知能が劣ることがある。
- 生後、喘息や気管支炎にかかりやすく、新生児・乳突然死症候群の発生率も高い。
体の清潔
外陰部は不潔になりやすいので毎日入浴し、清潔にしましょう。
お口の中の清潔について
妊娠中はホルモンの関係で、唾液の粘り気が強くなったり、食べかすが歯につきやすくなります。
また、つわりのために十分に歯磨きができないこともあり、どうしても口の中が不潔になります。毎食後にうがいや歯磨きをするよう心がけましょう。
安定期になったら、一度は歯科検診を受けましょう。
母乳栄養について
母乳はとっても素晴らしい栄養法
- 赤ちゃんの発育に最適な栄養がバランスよくとれます。
- 消化・吸収が良く、内臓に負担をかけません。
- 病気に対する免疫物質がたくさん含まれていて、感染を防ぎます。
- 適温で無菌的で経済的です。
- 子宮収縮を助けます。
母乳育児の始まりは妊娠中から
妊娠中日ごろからお手入れをすることで、赤ちゃんの吸いやすい乳頭になり、皮膚を丈夫にし、授乳時の乳頭亀裂や痛みを防ぎます。また、乳管の汚れを取り除き、母乳のスムーズな排出を助けます。
注意点
次のような方は、お手入れは避けましょう。
- 流産の危険が高い、妊娠15週以下の方。
- 流早産で治療中の方。
- お腹が張ったり、痛みのある方。
ブラジャーの選び方
妊娠により乳房もどんどん大きくなります。乳頭や乳腺を圧迫しないように大きめのブラジャー、もしくはブラジャーを着用しないことをお勧めします。
清潔にしておきましょう
- 爪は短く切りましょう。
- お風呂に入って清潔にしましょう。
- 泡立てた石鹸(ボディーソープ)で円を描くように乳頭を洗いましょう。
汚れがひどい場合は、コットン綿にオリーブオイルを浸して乳頭にそのコットン綿をつけ、その上にサランラップを小さく切ったものを貼ります。5分ほどしたら軽く拭き取り、お風呂で丁寧に洗います。
乳頭マッサージ
圧迫法、縦マッサージ、横マッサージがあります。
医療機関からの指示が出たら積極的にマッサージを行いましょう。
SMC式乳房マッサージ
乳房マッサージには色々な種類のマッサージ法があります。
その中でSMC式は乳腺を傷めず簡単に自分でできるマッサージです。
乳房の底部分の循環をよくして、乳汁の生成や流れをよくします。
とくに、産後の授乳前には必ず行ってから母乳を吸わせましょう。
妊娠中の栄養と体重コントロール
妊娠中の栄養
赤ちゃんが発育するためには、必要な栄養をすべて胎盤を通してママからもらうことになります。
妊娠中は赤ちゃんの発育とママの健康を保つために重要になりますので、バランスよく偏りのないよう栄養をとるようにしましょう。
妊娠中の食事
- 規則正しい食生活を心がけましょう。
- 鉄分・たんぱく質・カルシウムを多めにしましょう。
- 消化のよいものをとりましょう。
- 加工食品や強い香辛料、塩分は控えましょう。
妊娠中の体重コントロール
「安産は体重のコントロールから」と言われるように妊娠中の体重管理はとても重要です。
そして体重増加の目安は、妊娠前の体型(BMI)によって決められています。
体重が増えすぎると、妊娠高血圧症候群になりやすい、分娩時間が長引く、分娩時出血が増えたり産道が切れやすくなる、などの影響があると言われています。増えすぎには十分気をつけましょう。
BMIの計算式
体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)
※たとえば体重が58キログラム、身長159センチメートルの人のBMIは58÷1.59÷1.59=22.9です
妊娠期間中の体重増加量
体格区分(非妊娠時) | 妊娠全期間を通しての 推奨体重増加量 |
|
---|---|---|
低体重(やせ) | BMI 18.5未満 | 9から12キログラム |
ふつう | BMI 18.5以上25.0未満 | 7から8キログラム* |
肥満 | BMI 25.0以上 | おおよそ5キログラムを目安** |
妊娠中の摂取カロリー
妊娠中の摂取カロリーは、前期で1日あたり1,950キロカロリー、後期で1日あたり2,150キロカロリーです。
妊娠中に多い異常
貧血
妊婦さんの10人に3人は鉄欠乏性貧血です。胎児の成長とともに胎児には鉄分やカルシウムの必要量も増えていき、鉄分が胎児に移行し、血液が薄くなるために起こります。妊婦さんに貧血がある場合、微弱陣痛や分娩時の大量出血、母乳分泌不良などを引き起こす原因にもなります。栄養バランスに注意し、妊娠初期から赤血球のもととなる栄養(鉄分、ビタミンB6・C・B12、葉酸)を多くとるようにしましょう。
切迫早産
早産(妊娠22週0日から36週6日までの分娩)になりかかっている状態のことをいいます。
妊娠22から36週の間に子宮収縮が頻繁に起きたり、下腹痛、出血、子宮口が開く、破水するなどの症状があります。
原因は、細菌性膣症からの絨毛膜羊膜炎が切迫早産の原因の大部分を占めることがわかってきました。
その他に、子宮筋腫や子宮頸管無力症などの子宮異常、母体の合併症、精神的ストレス、疲労、多胎妊娠、胎児機能不全などが原因になって起こる場合もあります。
切迫早産の治療は、細菌性膣症の治療、子宮収縮剤の内服または点滴や自宅安静です。
予防は、絨毛膜羊膜炎を引き起こさないよう細菌性膣症の早期発見と治療、歯周病の予防と治療、ストレスや疲れを溜めない、体(特におなか)を冷やさない、などです。おなかの張りが1時間に3回以上あったり、下腹痛や出血があるときは、すぐに妊婦健診を受けている医療機関に連絡しましょう。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、妊娠中に何らかの原因で高血圧になったり、それに加えて蛋白尿や浮腫(むくみ)が出る病気の総称で、昔は「妊娠中毒症」と呼ばれていました。妊婦さんの100人に3から7人の割合で起こります。
母体には、肺浮腫や子癇、胎盤早期剥離、脳卒中など、胎児には、早産や低体重、胎児死亡などの影響があり、命にかかわることもある病気です。
予防法は、
- 睡眠や休息を十分にとる
- 塩分を控える
- 肥満を防ぐ
などです。早期発見・早期治療により、症状の改善や悪化を防ぐことができますので、異常を感じたら早めに受診しましょう。
妊娠糖尿病
妊娠により発症する糖代謝異常です。血糖値を下げるインスリンの作用を低下させる「胎盤性ホルモン」の分泌増加により、インスリンが正常に働きにくく糖代謝の異常が起こるとされ、妊婦さんの8人に1人が妊娠糖尿病と診断されています。
妊娠糖尿病は、母体の妊娠高血圧症候群、網膜症などの合併症、流産や早産、胎児の先天異常、胎児発育不全や巨大児、胎児機能不全、胎児死亡などのリスクが高まります。妊娠糖尿病と診断された時は、食事療法やインスリンの薬物療法などがあります。
予防法としては、
- 栄養バランスの良い食事を心がけエネルギーの過剰摂取に気をつける
- 医師の許可の範囲で適度な運動をする
- 急激な体重増加は避ける
などです。